土砂災害・土砂崩れは保険で補償される|補償を受けられないケースや補償金額について解説
日本では台風や大雨、地震による土砂災害が多く発生しています。令和3年には、42都道府県で972件の土砂災害が発生し、そのうちの約8割は7月、8月に発生しています(※)。
この記事では、土砂災害によって損害を受けた場合、火災保険で補償されるのか、また補償対象外のケースとはどのようなものかを詳しく説明します。
土砂災害は保険で補償されるのか?
土砂災害によって、所有している建物や家財が損害を受けた場合、保険で補償される場合があります。
土砂災害による損害を補償する保険は、主に以下の2つです。
- 火災保険
- 地震保険
同じ土砂災害でも、発生原因によって適用される保険が異なります。火災保険や地震保険が、それぞれどのような原因の土砂災害を補償するのか、確認しておきましょう。
火災保険で補償される土砂崩れ
火災保険で補償される土砂崩れは、以下の原因の場合を指します。
- 台風
- 豪雨
- 暴風雨
ただし、これらが原因の土砂災害を補償対象とするためには、火災保険の補償に水災が含まれている必要があります。
地震保険で補償される土砂崩れ
地震保険で補償される土砂災害は、以下を原因とする場合を指します。
- 地震
- 火山噴火
ただし、これらを原因とした土砂災害の補償を受けるには、地震保険を契約する必要があります。火災保険のみでは補償されません。
- 火災保険だけでは、地震や津波、噴火による損害は補償されません。地震保険を付帯することで、これらの損害に備えることができます。また、地震保険は単体で契約ができず、火災保険とセットで契約する保険です。火災保険の契約途中でも、地震保険を契約することができるので、地震に対する備えとして契約することをおすすめします。
火災・地震保険の補償が受けられないケース
火災保険や地震保険に契約していても、次のようなケースでは土砂崩れによる建物や家財の補償が受けられません。
- 保険金の支払い基準を満たしていない
- 損害額が免責金額(自己負担額)を超えていない
- 被害発生から一定期間経過している
- 自動車が受けた損害
火災保険の水災補償では、床上浸水や損害の割合が30%以上、地震保険では損害の程度が一部損以上など、損害の程度が一定規模に達しないと補償を受けることはできません。また、火災保険の契約時に自己負担額を設定している場合や、被害の発生から一定期間経過してしまった場合、自己所有の自動車の損害も補償の対象外となります。自動車が土砂崩れに巻き込まれ、損害を受けた場合は自動車保険の車両保険で補償されます。
支払い基準を満たしていない
土砂崩れによる損害が、火災保険の補償対象となるためには、損害の程度が以下の支払い基準を満たす必要があります。
水災の支払い基準 |
|
地震が原因の土砂崩れが、地震保険で補償されるには、損害の程度が少なくとも「地震保険の一部損」以上の基準を満たす必要があります。
建物 | 家財 |
---|---|
| 家財全体の損害額が、家財全体の時価額の10%以上30%未満 |
損害額が免責金額を超えていない
免責金額とは、火災などによる損害が発生した場合の自己負担額のことです。免責金額を設定することで、火災保険料が安くなるメリットがありますが、損害額が免責金額を超えていない場合は、火災保険金が支払われないので注意が必要です。
例えば、火災保険の免責金額を5万円と設定していて、土砂災害の損害額が5万円を超えなかった場合、火災保険金は支払われず、全額自己負担となります。
被害発生から一定期間経過している
原則として、保険金の請求権利の期限は3年です。ただし、起算日については保険法に定めがありません。そのため、土砂災害が発生して建物や家財が損害を受けた場合、速やかに保険会社に事故報告をすることが大切です。時効の定めは保険会社や保険商品によって異なるので、確認しましょう。また、地震発生から10日以上経過してから発生した損害は、地震保険の保険金支払い対象外となります。
ただし、東日本大震災のような大規模な災害は、保険会社が時効を延長して、保険金請求を受け付けている場合もあります。
自動車が受けた損害
土砂災害によって、自身が所有する車が損害を受けた場合、火災保険や地震保険では保険金が支払われません。
水災による土砂災害に備えたい場合は、自動車保険にエコノミータイプ、または一般タイプの車両保険を付帯することで、補償の対象となります。
ただし、地震による土砂崩れの場合は、自動車保険の車両保険も補償対象外です。この場合、自動車保険の地震による損害をカバーする特約を付帯すると、補償対象となる場合があります。ただし、全損でなければ補償を受けられない、受け取れる保険金額は50万円までなど、制限を設けているケースがほとんどです。
土砂崩れによる被害で受け取れる補償金額
水災が原因の土砂崩れの損害に対して保険金を受け取る場合、次のような計算式で保険金額を算出します。
保険金(再調達価格)(※)=損害額-免責金額 |
- ※保険金額が上限になります。
共済の場合、一時金で共済金を受け取れるケースもあります。
被害の程度 | 損害の程度 | 支払い限度額 |
---|---|---|
全壊・流出 | 住宅の損壊率70%以上 | 300万円 |
半壊 | 住宅の損壊率20%以上70%未満 | 150万円 |
また、地震保険は、火災保険とは異なり、損害額に応じて保険金が受け取れるわけではありません。損害の程度によって、以下の4段階に分類されます。
損害の程度 | 受け取れる保険金(建物・家財) いずれも時価(※)が限度になります。 |
---|---|
全損 | 地震保険金額の全額 |
大半損 | 地震保険金額の60% |
少半損 | 地震保険金額の30% |
一部損 | 地震保険金額の5% |
- ※時価…同等の物を新たに建築、または購入するのに必要な金額から、再調達価格から使用による消耗、経年劣化分を控除した金額
土砂災害に遭ったときの保険金の請求方法
土砂災害に遭ったときに保険金を受け取るためには、保険会社が指定する必要書類を準備した上で、手続きをする必要があります。ここでは下記の2つのケースにわけて、保険金の請求方法を説明します。
- 火災保険の水災補償の場合
- 地震保険の場合
なお、各ケースの必要書類については、以下の記事で詳しく解説しています。
火災保険の水災補償の場合
火災保険の水災補償に関する保険金請求の流れは、次の通りです。
- 1. 保険会社や保険代理店に保険金請求事故発生の連絡
- 2. 保険金請求に関する必要書類の記入
- 3. 保険金請求書の提出(保険金請求書以外の必要書類も同封)
- 4. 保険会社による書類確認、必要に応じて現地調査
- 5. 保険金の支払い
<必要書類>
- 保険金請求書
- 罹災証明書
- 損害明細書
- 修理見積書
- 損害箇所の写真
水災補償に限らず、火災保険では事故が起きたら、まず保険会社に事故報告をする必要があります。その際、分かる範囲で事故の状況や、損害の程度などを連絡します。追って詳細資料の郵送が必要ですが、罹災証明書については自治体で申請ができ、損害箇所の写真撮影、修理見積書の作成は、修理業者に対応してもらうことが一般的です。
ただし、対応方法は保険会社によって異なるため、最初の連絡の段階で対応方法なども含めて確認をしておくと良いでしょう。
地震保険の場合
地震保険の場合、基本的に保険会社の事故調査係が現地調査を行うため、地震保険の保険金請求手続きは、保険会社に連絡をして、訪問調査の日時を決めるだけです。
- 1.保険会社に連絡
- 2.損害状況の確認するための訪問日時を決める
- 3.保険会社の担当者による損害状況の現地調査
- 4.保険金額の算出
- 5.保険金額の算出根拠の説明
- 6.保険金額の確認、了承
- 7.保険金の支払い
<必要書類>
- 保険金請求書
- 罹災証明書
- 住民票の写し
- 建物登記簿謄本
地震保険の保険金請求に必要な書類は、保険会社から送付される、あるいは現地調査の際に渡されます。
まとめ
土砂崩れで建物や家財が損害を受けた場合、水災が原因であれば火災保険から、地震が原因であれば地震保険から、保険金を受け取れる可能性があります。ただし、支払い基準を満たしていない場合や、免責額を超えない損害など、保険金を受け取れないケースもあるので、注意が必要です。
土砂災害リスクが高い地域に住んでいる場合は、水災、地震による土砂災害の補償が受けられる保険を契約しているか、確認をしておきましょう。また、自分の住んでいる地域が土砂崩れのリスクがあるか知りたい場合は、自治体が用意しているハザードマップ(※)などで確認ができます。ハザードマップは最寄りの市区町村役場で確認できるほか、インターネットでの検索も可能です。