賃貸住宅向けの火災保険とは|契約が必要な理由と契約時の注意点を解説
賃貸住宅で「火災保険」を契約する場合、家財に対して保険をかけます。この契約は義務ではありません。しかし、火災保険を契約しないことで、大きなトラブルに発展する可能性があります。また、賃貸借契約の条件で、借家人賠償責任保険を付帯した火災保険の契約が必須である場合もあります。
そのため、賃貸住宅に住む場合でも、火災保険の契約は必要だと考える方が良いでしょう。賃貸住宅の火災保険について知りたい方や、賃貸住宅の火災保険料を抑えたい方は、ぜひ参考にしてください。
賃貸住宅の火災保険とは
賃貸住宅の火災保険とは、家財の火災保険(以後、家財保険)に、賠償責任保険の特約を付加したパッケージ商品です。賠償責任保険とは、他人の持ち物に損害を与えてしまい、法律上の損害賠償責任を負った場合、その損害額に対して支払われる保険です。この仕組みを理解するために、まずは火災保険の補償対象が、「建物」と「家財」の2つに分かれている点を押さえておきましょう。
契約している火災保険の補償対象が「建物」のみの場合、自宅が一部焼失または全焼すると、建物に対して保険金が支払われます。テレビや家具などの家財への損害には、保険金が支払われません。災害などから自己所有の建物と家財を守るためには、建物と家財の両方を補償対象とした火災保険の契約が必要です。
一方で、賃貸住宅の場合、建物の所有者は大家のため、建物の火災保険は一般的に大家が契約します。そのため、入居者が火災保険を契約する場合の補償対象は、家財のみです。万が一、入居者が建物に損害を与えた場合、修理代は入居者が大家へ賠償します。賠償が発生するため、賃貸住宅の火災保険は、「家財の火災保険+賠償責任保険」で構成されています。
賃貸住宅の火災保険の補償内容
賃貸住宅に入居するときに契約する火災保険は、主に「家財保険+2つの賠償責任保険」で構成されています。具体的には、以下の通りです。
- 家財保険
- 借家人賠償責任保険
- 個人賠償責任保険
それぞれの補償内容について、解説します。
家財保険
「家財保険」とは、自身の部屋にあるテレビや家具などの家財が、災害などで損害を受けた場合、修理代や新しい商品の購入費用を支払うものです。例えば、部屋で調理中に家電や家具に引火して焼失した場合などに、買い替えや修理にかかった費用を、保険金額の範囲内で補償します。
その他、家財が損害を受けた場合、以下は保険金の支払い対象です。
【家財保険の補償内容】 火災、落雷、破裂・爆発、風災、雹(ひょう)、雪災、水災、物体の飛来・衝突、水濡れ、騒擾(そうじょう)、盗難、不測かつ突発的な事故(破損・汚損)※ |
- ※ 不測かつ突発的な事故は、補償の対象外となることもあります。また、保険会社によっては、修理代の一部は自己負担となります。
借家人賠償責任保険
「借家人賠償責任保険」とは、賃貸住宅の入居者が、偶然の事故などで自身の部屋に損害を与えた場合、大家に修理代を賠償するための保険です。
具体的な事例としては、洗濯機のホースから水漏れが発生し、床や壁などの張り替えが必要になった場合などが挙げられます。借家人賠償責任保険を契約している場合、入居者は、保険会社が賠償責任保険金を用いて、大家に修理代を支払います。借家人賠償責任保険を契約していない場合、修理代は自己負担です。
個人賠償責任保険
賃貸住宅には他の入居者も住んでいるため、自分以外の人に損害を与えてしまうことがあります。例えば、給湯管の水漏れが発生し、下の階の天井にシミを作ってしまったとします。下の階の入居者から修理代を請求されたとしても、「個人賠償責任保険」を契約していれば、修理代や買い替え費用を保険金でまかなうことができます。
水漏れが発生し、大家と他の入居者の両者に損害を与えた場合、借家人賠償責任保険と個人賠償責任保険の両方を契約することで補償できます。
このほか、自転車で人とぶつかりケガを負わせてしまった場合も、損害賠償金で補償できる可能性があります。個人賠償責任保険は、自動車保険、傷害保険、ゴルファー保険などの特約として付帯されていることもあるため、重複しないように注意しましょう。
賃貸マンションやアパートで火災保険の契約が必要な理由
賃貸マンションやアパートの火災保険の契約は任意ですが、以下のようなケースにおいて火災保険が適用できる場合があります。そのため、賃貸住宅に入居する場合には、火災保険を契約する必要があると言えるでしょう。
- 退去するときに原状回復義務がある
- 隣家からの火災・もらい火などの損害は自己負担である
それぞれのケースで火災保険がなぜ必要なのか、もう少し詳しく解説します。
退去するときに原状回復義務がある
現在住んでいる賃貸住宅を退去する場合、入居者には原状回復義務が求められます。
入居者に原状回復義務があるものは、引越し作業で生じたキズなど、故意・過失での損耗や通常の使用では発生しないような損耗に対してです。そのため、畳の日焼けのような、通常の使用で発生する劣化・損耗に対しては、原状回復義務は発生しません。
損害が偶然の事故で発生したものであれば、借家人賠償責任保険での補償が可能です。ただし、偶然の事故でない場合や、保険が満期となり補償期間外の場合(※)は、借家人賠償責任保険の補償対象外です。補償対象になるかわからない場合は、契約している保険会社に問い合わせてみましょう。
隣家からの火災・もらい火などの損害は自己負担である
隣家からのもらい火によって、自身の家財に損害が発生することがあります。注意点は、もらい火で自身の家財に損害が発生しても、出火元に賠償責任を追及できない点です。
日本では、「失火責任法」という民法の特別法が優先されるため、出火元に重大な過失がない限り、賠償責任はないという決まりがあります。日本は木造家屋が多く、火災が発生すると損害が著しく拡大する恐れがあり、出火元の責任を軽減するために制定されました。
そのため、もらい火で自身の部屋の家財に損害があった場合でも、相手から弁償されず自己負担です。自身の家財を守るためには、家財を補償対象とした火災保険の契約が必要です。
- ※ 退去時に物件の状況確認を行って、原状回復義務があると判断されたタイミングが、保険期間の満期後で補償期間外での場合、遡及できない可能性があります。
火災保険の家財の保険料
火災保険料は、建物の構造によっても大きく保険料が変わります。木造の場合は、2年間で2万~3万円、鉄筋コンクリート造の場合は、2年間で1万円~2万円強程度が相場です。
一方、家財保険はどうなのでしょうか。
保険会社が想定しているモデルケースでは、一人暮らしで所有する家財の目安は「300万円」とされることが多いです。ただし、人によっては家財の総額が300万円以下であることも考えられます。また、賃貸住宅の火災保険は、基本的に「家財保険」「借家人賠償責任保険」「個人賠償責任保険」の3つがセットになっている上、プランを選択するだけで契約できることも多いため、保険料の内訳をあまり知らない人が多く、保険料が過剰になっている可能性があります。
家財の補償額を自身の実情に合った金額に見直すだけでも、火災保険料を抑えることができます。
家財が補償対象の火災保険では補償されない損害もある
家財が補償対象の火災保険では、保険金支払いの対象外となるケースがいくつかあります。
例えば、水災がほとんど起こらない区域に住む人は、保険料を抑えるために、水災の補償を外すことがあります。この場合、万が一水災が起こったときに、家財の損害は補償されません。補償内容から水災を外すかどうかについては、自治体のハザードマップなどを見ながら慎重に検討しましょう。
家財を補償対象とした火災保険には、地震保険を付帯させることができます。地震を原因とする損害は、地震保険を契約していなければ補償の対象となりません。例えば、地震が原因で火災が発生した場合、火災保険を契約していても、地震保険を契約していなければ、保険金の支払い対象にはなりません。地震保険は単体で契約できず、火災保険に付帯して契約する必要があります。
家財を補償対象とした火災保険の契約方法と注意点
家財を補償対象とした火災保険を契約するためには、以下の2つのルートがあります。
- 賃貸借契約時に不動産会社から紹介された火災保険を契約
- 自身で比較して選んだ賃貸用家財保険を契約
賃貸住宅に入居するまでの書類のやり取りの多くは、不動産会社を通じて行われるため、火災保険の手続きもその他の手続きと同時に契約する人がほとんどでしょう。しかし、賃貸住宅の火災保険は、必ずしも不動産会社の紹介した火災保険を契約する必要はなく、自身で選んだ火災保険の契約も可能です。
賃貸借契約時に不動産会社から紹介された保険を契約
火災保険の契約は、賃貸借契約時に不動産会社から紹介されたものを契約することもできます。ただし、不動産会社からすすめられた保険では、家財の保険が過剰である場合もあります。そのため、保険料見直しの余地がある可能性が高いと言えます。
自身で比較して選んだ賃貸用家財保険を契約
賃貸住宅の火災保険は、大家から求められる契約条件を満たしていれば、自身で選ぶこともできます。求められる契約条件は、「借家人賠償責任保険を契約すること」です。賃貸住宅を損壊させた場合、入居者は損害賠償責任を負う必要があり、その補償のために必要な特約です。
ただし、自身で保険を選ぶ際に、保険料を抑えることに重点を置きすぎると、本来必要な補償額を満たしていないことや、借家人賠償責任保険、個人賠償責任保険の特約を付加し忘れてしまう可能性もあります。
また、火災保険は、2年ごとに満期を迎えるのが一般的です。満期後に事故が発生しても補償されないので、火災保険の開始日と満期日についてはしっかりと確認し、入居している間に補償が途切れないよう、注意しましょう。
まとめ
賃貸住宅の場合、借家人賠償責任保険が付帯された保険を契約することが必須です。不動産会社からの紹介で契約する賃貸住宅の火災保険は、より個別の事情を加味した補償内容にすれば、保険料の見直しも十分可能です。
引越しをする人、新たに賃貸住宅に住む人、火災保険の更新時期が近く、保険料を抑えたいという人は、賃貸住宅の火災保険の仕組みを理解し、自身で火災保険を選んでみると良いでしょう。