質権設定とは|火災保険に設定される理由や注意点を解説

更新日:公開日:
住宅ローンを利用して物件を購入する場合、金融機関から火災保険に「質権(しちけん)設定」を求められることがあります。質権設定をすると、火災保険の内容変更や解約の際に、金融機関の了承が必要になるなど、火災保険の手続きが少し複雑になります。この記事では、火災保険の質権設定とは何か、また、その目的について分かりやすく解説します。
この記事の目次【閉じる】

質権設定とは何か?わかりやすく説明

「質権」とは、債権者が担保として、債務者の物品を預かって債務が返済されるまで占有し、債務が返済されない場合に、物品を売却して、弁済に充当できる権利のことです。質権を物品に設定することを、「質権設定」といいます。質権設定は、質権設定契約によって、締結となります。債権者のことを「質権者」、担保として物品を提供する側のことを「質権設定者」と呼びます。

質権に似た権利として、「抵当権」があります。抵当権は、債権者に物品の引き渡しをせず、債務者がそのまま使用できるため、債務者は土地の利用や建物に居住することができます。

一方、質権は、弁済するまで債権者の手元に物品を置いておくことができません。そのため、質権を土地や建物に設定すると、債務者はその土地を利用したり、建物に居住したりすることができません。金融機関は、住宅ローンを融資する際の担保として、建物に抵当権を設定することが一般的ですが、火災保険に質権を設定するケースもあります。

金融機関から火災保険に質権設定を求められる理由

住宅ローンを融資する際、金融機関が火災保険に質権設定することを求めるのは、火災などで建物が滅失した場合でも、住宅ローンの残債を回収することができるためです。

金融機関が、建物に抵当権を設定していた場合、万が一、火災などで住宅ローンを融資した建物が滅失すると、債権者は建物を売却することができず、スムーズに債権の回収ができなくなります。そこで、火災保険に質権設定し、火災などで建物が滅失したとしても、火災保険金を受け取って残債に充てることができるようになります。

火災保険に質権設定しているときの注意点

住宅ローンの融資を受ける人が火災保険に質権設定をしている場合、以下の2点に注意する必要があります。

  • 自由に火災保険の契約を変更・解約できない
  • 保険金を請求する際に金融機関に連絡が必要

以下、住宅ローンを利用する側にとって、デメリットにもなり得る注意点を詳しく解説します。

自由に火災保険の契約を変更・解約できない

火災保険に質権設定されている場合、住宅ローンの借入れ側は、火災保険の契約を自由に変更・解約することができません。契約の変更や解約時に、金融機関の了承が必要となります。

借入れ側が自由に火災保険の見直し・解約ができ、火災保険金額が住宅ローンの残債に満たない契約だったとしましょう。この場合、火事で建物が滅失すると、金融機関側は、住宅ローンの残債を火災保険だけで回収しきれないリスクが発生してしまいます。

そのため、火災保険の変更・解約をする際には、火災保険の補償内容について金融機関の了承が必要です。初めて火災保険を契約する際には、金融機関の提携している損害保険会社の商品をすすめられますが、金融機関の求める補償内容を満たしていれば、基本的には自由に保険会社を選ぶことができます。

保険金を請求する際に金融機関に連絡が必要

火災保険に質権設定されている場合、基本的に火災保険金の受取人は、金融機関となります。そのため、仮に火災や風災の損害を受けて修理が必要となり、住宅ローンの借入れ側が修理費用として火災保険金の請求をしたい場合は、金融機関に連絡する必要があります。

ただし、住宅ローンの返済を滞納している場合は、金融機関から返済能力がないとみなされ、スムーズに保険金を受け取れない可能性があるので、注意が必要です。

手続きは保険会社や金融機関の指示に従って行う

火災保険の質権設定をするといっても、住宅ローンの借入れ側の手間はそれほどありません。通常の火災保険の申込書に加え、「質権設定承認請求書」に必要事項を記入し、捺印したものを添付して保険会社に提出するだけです。

なお、火災保険の質権設定をしている場合、火災保険の証券の原本は金融機関で保管され、保険証券の写しが送られてきます。補償内容などを確認する際は、この保険証券の写しを確認しましょう。

質権設定を求められることがなくなった理由

最近では、火災保険に質権設定する金融機関は、ほぼなくなったといわれています。その理由には、以下の3点が挙げられます。

  • 住宅ローンの利息を受け取れなくなる
  • 火災保険の保険期間の短期化
  • 必ず保険金を受け取れるわけではない

それぞれの理由について、詳しく解説します。

住宅ローンの利息を受け取れなくなる

金融機関は、住宅ローンの残債を火災保険で全て完済されると、仮に建物が火事で滅失した場合、その後の住宅ローンの利息を受け取れなくなってしまいます。金融機関にとっては、質権設定して火災保険から住宅ローンの残債を回収してしまうよりも、そのまま住宅ローンを貸して利息を受け取った方がメリットになるため、質権設定をしないケースが増えています。

火災保険の契約期間の短期化

かつての火災保険の契約期間は、「最長36年」でしたが、2022年10月以降は「最長5年」となりました。36年契約であれば、住宅ローンを返済している期間中に火災保険の満期が来るということは、ほぼありません。住宅ローン契約時に、火災保険の契約手続きを同時に済ませてしまえば、それ以降、火災保険に関する手続きが発生することはあまりなかったのです。

しかし、火災保険の契約期間が最長5年になると、35年の住宅ローンの場合、火災保険の満期が7回訪れます。火災保険の満期が訪れる頻度が多くなると、金融機関は質権設定の手続きや補償内容の確認などの作業が、増加します。作業コストを抑えるために、質権設定をしないようになったと考えられます。

必ず保険金を受け取れるわけではない

例えば、「天ぷら油を入れた鍋をガスコンロに熱したまま台所を離れ、出火してしまった」というように、契約者に明らかに重大な過失がある場合は、火災保険金が支払われないこともあります。このように、質権設定をしていたとしても、十分な保険金を受け取れないケースもあるため、質権設定の必要性が薄れたと考えられます。

まとめ

金融機関は、火災保険に質権設定を求めることがあります。これは、質権設定をすることで、住宅ローンの借入れ側の建物が事で滅失してしまった場合も、金融機関が住宅ローンの残債を火災保険金で回収することができるためです。

ただし、最近では、住宅ローンを利用する際に、火災保険の質権設定を必要とする金融機関はほとんどありません。また、必ずしも住宅ローンを利用する金融機関から、火災保険を契約しなければならないというわけではありません。住宅ローンの諸費用は決して安くないので、金融機関が勧めるものに流されず、火災保険の補償内容と保険料を比較した上で、契約することをおすすめします。